宇都宮地方裁判所 昭和24年(行)35号 判決
原告 岡崎秋之助
被告 栃木県知事
補助参加人(被告側) 馬頭町農地委員会
一、主 文
本件訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は請求趣旨として被告が訴外大森孝寿に対し為した別紙目録記載の農地の売渡処分は之を取消す。被告は原告に対し別紙目録記載の農地を売渡すべし。訴訟費用は被告の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として、原告は明治四十三年頃以来別紙目録記載の農地の小作人であつた。右土地の所有者訴外新井万吉は昭和二十二年中税金に対する物納として右土地を政府に提供した結果政府の所有に帰した。右土地につき耕作の業務を営む小作人であつた原告は、自創法第十六条同法施行令第十七条第一項第三号により右土地の買受資格を有するところより参加人委員会に買受の申込を為した。しかるに訴外大森孝寿は参加人委員会と結託して虚偽の申告をし原告を威嚇し或は詐術を用い原告の買受申込を妨害し、被告栃木県知事を誤らしめて昭和二十四年五月二十六日右大森孝寿に対し売渡処分を為さしめたのである。それ故右売渡処分は違法である。仮りに大森孝寿が原告に替り小作人となつたものとすれば右施行令第十七条第一項第三号括弧内により大森孝寿が売渡の相手方となるには県農地委員会の承認がなければならない。しかるにこの承認がない。仮りに承認を受けたとしても大森孝寿に対し参加人委員会が農地調整法附則第三条に基き賃借権回復の裁決を為したものであるから、原告は昭和二十三年六月十五日参加人委員会を経由して県農地委員会に訴願を為したところが未だ裁決がない。大森孝寿の耕作権の有無を決定せざる以上前記承認はその効力はないものである。従つて売渡処分は違法である。この売渡処分の前提を為す売渡計画があつたとしても同じ理由で違法のものである。次に前記売渡処分は再売渡処分であるが前売渡処分は売渡計画樹立前に為されたもので無効である。即ち右売渡処分は昭和二十三年一月十日為されたが売渡計画が昭和二十三年一月三十日であるとてこの売渡処分は昭和二十四年五月二十六日更正が為されたのであつて、更正前の売渡処分は無効であるのでこれを換言すれば、被告栃木県知事は昭和二十三年一月十日附にて売渡通知書を発行したが、昭和二十三年は昭和二十四年の誤りで売渡計画前となることに気付き、昭和二十四年一月十日と更正し樹立後の発行となすこととした。しかし斯かる更正は単なる通知書の記載事項の更正と異なり新なる発行と解されるのは当然であるからこの更正により売渡通知書は昭和二十四年一月十日附発行となつたもので、新な売渡処分は更正のなされた昭和二十四年五月十六日に為されたこととなると陳述し、被告は出訴期間を経過したと主張するが売渡処分は前述の通り昭和二十四年五月六日にあり本訴の提起は昭和二十四年六月二十二日であつて毫も出訴期間を逸してはない。売渡通知書の受領日は昭和二十四年四月十日となつているが売渡通知書日附更正前の昭和二十四年一月十日のものであるからその日に受領したことにはならない。換言すれば昭和二十三年一月十日が昭和二十四年一月十日と更正された昭和二十四年五月十六日に受領したものと解すべきである。また被告は売渡処分の基本たる売渡計画に対し異議訴願が為されていないので売渡処分の取消を求める訴は提起できないと主張するが、仮りに異議訴願がなされていないとしても売渡計画と売渡処分とは前提要件を為す連続した行政処分であるから、売渡処分に対する不服の訴に於て売渡計画に対する不服も含め得るものである。且つ原告は昭和二十四年六月十八日原告対訴外大森孝寿間の占有回収の訴に於て大森側より書証として提出された売渡通知書により初めて前記売渡処分の為されたことを知つた程であり、参加人委員会は大森孝寿に加担し原告が売渡処分の土地を買受けようとすることを妨害し策動し来り、売渡計画に至つてはこれを知る機会を封ぜられ知るに由なかりしものである。斯かる事情は行政事件訴訟特例法第二条に定める異議訴願を経ないことにつき正当な事由となるものである。次に原告は被告に対し売渡処分を為すべしとの判決を求めることは許されないと主張するが、売渡処分を取消すと同時原告に対し売渡処分を求める場合は必然的な関係にあり、これを許さずとして引離すことは農地法の精神に反することとなり、売渡の相手方を訴外大森孝寿とあるを原告に変更する趣旨ともなり、決して単純に新なる行政処分を求むるものではないと述べた。(立証省略)
被告及参加人指定代表者は本案前の主張とし、(一)参加人委員会は昭和二十三年十月三十日原告主張の売渡処分の前提として売渡計画を決定したが、原告はこれに対し異議の申立もせず訴願も提起しない。従つて行政事件訴訟特例法第二条により要求されている訴願前置主義に反し訴訟要件を欠くものとして本件訴は却下さるべきである。原告は訴願を欠くとしても正当理由があると主張するが、正当理由は認められない。正当な理由とは例えば訴願したが行政庁が受理しない場合又は訴願人の責に帰せざる事由によつて期間内に訴願できなかつた場合等である。(二)原告主張の売渡処分は昭和二十三年十二月二日確定し売渡通知書は被告栃木県知事より昭和二十四年四月十日訴外大森孝寿に交付されたものであり、本件訴の提起されたのは同年六月二十二日であるから売渡処分のあつたときより二ケ月以上を経過している。右売渡通知書は発行年月が昭和二十四年一月十日であるに拘らず事務的に誤つて昭和二十三年一月十日と記載されたことは事実になるが、単なる記載事項の誤謬として昭和二十四年四月十八日(当庁昭和二十四年(ワ)第二二号土地占有回収損害賠償事件口頭弁論期日)昭和二十四年一月十日と訂正が行はれ大森孝寿もこれを承知した。この更正は事務的なもので売渡処分の効力には毫も影響あるものではない。仮りに売渡処分の起算点を更正の日の昭和二十四年四月十八日とするも出訴期間の二ケ月は経過しているので訴は訴訟要件を欠き却下さるべきである。次に原告は被告に対し売渡処分を求めているが、被告栃木県知事は判決を以て行政処分を為すことはできない。勿論行政事件訴訟特例法は行政処分の取消変更を認めるだけで行政処分を命ずる訴は許してない。斯かる請求は訴訟要件を欠き失当であると述べ、本案につき原告の請求棄却の判決を求め答弁として、原告主張事実中土地が物納により政府の所有に帰した点買受申込の点大森孝寿に対する売渡の点は認めるがその他は否認する。原告主張の農地は自創法第十六条同法施行令第十七条第一項第三号に該当する農地であるが、昭和二十年十一月二十三日現在も売渡計画時たる昭和二十三年十月三十日も訴外大森孝寿が耕作していたものである。従つて原告主張の如く栃木県農地委員会の承認を受くべき場合ではない。大森孝寿が当然売渡の相手方となることは明白である。証言によれば右農地は昭和八年頃大森孝寿が原告より無条件にて転貸を受け十数年来耕作中のところ原告は昭和二十一年三月中無断にて馬鈴薯を蒔付けた。そこで大森孝寿は非常に驚いたが原告の風評の悪いことを知つていたのでそのまゝ過した。其後部落民の仲介するものがあつたが不調に終つた。大森孝寿は昭和二十二年五月十三日参加人委員会に耕作権回復の申請を為し委員会に於て調査の結果申請を認めて大森孝寿に耕作権の回復を許したのである。原告はこれに対して訴願の手続に出でたが問題は深酷化したので参加人委員会はこれを憂慮し紛争斡旋に勉めた結果、同年六月二十三日妥協成立し前記農地は大森孝寿の耕作権としこれに対し右農地の北隣り田九畝十七歩を原告の耕作権としたのである。尚原告は前記訴願の取下を為した。以上の次第で大森孝寿の右農地につき売渡計画が昭和二十三年十月三十日為され同年十二月二日栃木県農地委員会の承認が済み、昭和二十四年一月十日前記の売渡処分が行はれたのである。原告の請求は全く理由がないと述べた。(立証省略)
三、理 由
先づ出訴期間の点につき審按するが、本件訴が昭和二十四年六月二十二日当裁判所に受理されたことは訴状に押捺の受理印により明らかである。そこで原告主張の売渡処分が何日為されたか問題である。成立に争はない甲第七号証(売渡通知書)乙第一号証(右受領証)参加人指定代表者広田佐武郎の本人尋問結果(第二回)を綜合すれば右売渡処分の為されたのは昭和二十四年一月十日であり、売渡通知書が売渡を受ける大森孝寿に送付されたのは同年四月十日であることが確認できる。尤も右売渡通知書の発行日付が「昭和二十三年一月十日」と記載されていたことは右甲第七号証により認められ、右記載が昭和二十四年四月十八日単なる事務上の誤記として「昭和二十四年一月十日」と訂正され、大森孝寿にも伝達されたことは右広田佐武郎の供述により認められるのである。しかれば自創法第四十七条の二第一項但書により売渡処分の効力発生の日である昭和二十四年四月十日より起算し二箇月を経過するときは訴を提起することができないこととなる。訂正日は昭和二十四年四月十八日であるが訂正によつて処分の日に遡り瑕疵が治癒されるが訂正日より起算すべきではない。しかれば本件訴提起は正に出訴期間を経過したことになるのである。原告としては僅かの相違で出訴権を喪失することになるが止むなき次第である。原告はこれに対し売渡通知書の発行日付を訂正するが如きは新なる売渡通知書と解さねばならないと主張するが、発行日付が前認定の通り単なる誤字に過ぎないとすれば原告の見解は妥当でない。尚原告は訂正の日を昭和二十四年五月十六日なりとし出訴期間は経過せずと為すがこれまた採用し難い。しからば異議訴願を経ざることの当否を判断するまでもなく売渡処分取消の訴は出訴期間を経過し訴訟要件を欠くものとし訴はこれを却下すべきである。尚売渡処分を求むる請求に関しては売渡処分の取消を前提としこれと不可分的関係に於て請求を為すものであることは原告の主張で明かであるが故に基本的関係にある売渡処分取消の訴が前述の如く却下される以上これまた共に却下さるべきことは当然であり多言を要しない。売渡処分の取消と共に斯かる売渡処分の請求が許されるか否かは判断は不用である。以上の次第であれば本案に入り審按することは許されないが本件記録に徴すれば原告に勝訴の見込はないことを附言する。訴訟費用は敗訴原告の負担とする。よつて主文の通り判決する。
(裁判官 岡村顕二)
(目録省略)